マンガの(武林風)描き方
その12

今回は特に漫画家志望の方々へ


今回は特に、「漫画家になりたいっ!」とか、「漫画家になると決めている」というような
方々に向けてのみ、私ならこう考えるだろう戯れ言を書きたれてみることにします。

私も個人的に「ただのヨコズキ」なだけですが、漫画家志望者のためのBBSとか、
たまに見たりするんです。
たいがいの場合は「お〜お〜・・・こりゃまた熱いねぇ」とか
「は〜・・・こんな『漫画家になります宣言』俺には(今でも)言えないや」とか
クチの端でニヤニヤ笑いながらの、いわゆるすっげ〜嫌みな読み方でしかないのですが。
(まぁ、単なる欲求不満の日頃たまったハンパモン漫画家が、憂さ晴らしで覗いている
だけなので、実害は無いでしょうから、勘弁してくださいね/苦笑)

私は俗に言う、「ラッキーでなれた漫画家」で、かつ「ラッキーで漫画家続けている奴」です。
アマチュアの時期は、そりゃ漫画家になれたら嬉しいだろうけど、「なれる」なんて
これっぽっちも思っていなかったし。
「なる」ための覚悟も無かったし、努力もほとんどしてないです。
描くもの・描いたもの、やってるうちは「なんてグレードの高いものが描けたんだ!」とか
自己満足に浸ってはいましたが、描き終わったとたん、あるいは同人誌の印刷が出来上がった瞬間から、
「な〜んて下手糞なマンガ描いて、悦に浸ってたんだ」
と自虐的な鬱状態のくりかえしでしたし。

だいたい、素人にとって、マンガ(作品として一応完成・完結をみたもの)を一本描きあげる
ということは、
この上ない重労働だったりしますよね。
読者でしかなかった時代には、こんな事気づきもしなかったわけだし。
で・・・よくあるカン違いに陥るわけなんですよ。

「描くのは、読むのと違って、えらくタイヘンな作業なんだ!」
これに気づいただけで、もう、なんとなく漫画家志望者としての大事な階段を一歩踏み上がったような錯覚をおこしてしまうのです。
商業誌に載ってる「自分の嫌いな作品」や「自分にはとても上手いと思えない絵」とかも、
実はようけ時間と手間暇かけて描かれているんだなぁ・・・と、
それがわかっただけなんですが。
多くの方は察してらっしゃると思いますけど、
そんな事わかったぐらいじゃ、まだまだまだまだ甘いのだと思います。

自分もアマチュアの頃はそうでしたが、
「マンガでも描こうかなぁ」「そろそろ描きたくなってきたなぁ」
と、自分のテンション主動でマンガ描きの作業を選んでいても、そう満足いけるモノなんて
描けやしないのですよ。
それを商業誌でやってる(自分としてはとても「コイツをプロだとは認めたくない」ような)マンガ
って、週刊・月刊・その他スパンはいろいろ違えど、一定の期限内に、コンスタントにプレゼン
されてるわけなんですよね。

もちろん、「俺は読者としてのみ、マンガを楽しむつもり」な方々は、
どうぞ嫌いなマンガはけなして、読まずに飛ばしてしまっても、問題ありません。

ただ、自分も漫画家に・・・絶対漫画家になる、とか言う方々ならば、
そういう見方だけでは、ちょっと足りないのかもしれません。

たとえば以前ウチに通ってもらってた、漫画家志望のアシ君の何人かの例なのですが、
「漫画家になりたいなら、投稿なり持ち込みなり、作品を描く以外、道はないよ」
「ええ、わかってます。これでもほとんど毎日、投稿マンガに没頭してるんです」
「この一年間で何本ぐらい描けた?」
「今回のは自信作なんで、この一本に一年間かけて、じっくりやるつもりなんです」
「おいおい・・・それじゃプロじゃやってけないよ」
「でも、あんまり粗製乱造しても、イイモノ描けないじゃないですかぁ」
「う〜ん・・・でも、おまえの目指してるプロの漫画家って、しょせん粗製乱造ばっか
しなくちゃなんないものなんだけど?」
「いや、ボクはセンセの考えとは違いますから」

もちろん件のアシ君の考えを非難できるほど、私が漫画家として「ちゃんとプロ」なのか
どうかには自信はないですが。
でも、ちょっとした単純な疑問がいっぱい残るのです。

一年間かけて、仮に自分で満足のいくまでの作品が描けたとしましょう。
で・・・
それで食っていけるのかオマエ?

漫画家志望の多くの方は、
「そんな事言っても、今の段階では描くのに時間と手間暇がようけかかるのだから、しょうがないじゃないか」
「なまじなモノを描いたとしたって、プロにはなれないでしょ?」
と言うでしょう。

で、私はここで「う〜〜〜ん」と考え込んでしまうわけです。

いいモノを描くには時間がかかる。
本当にそうなのかなぁ?
時間をかけて描いたものは、作画クォリティが高くて、プロになるための勝負を賭けられるモノになる。
本当にそうなのかなぁ??
やがてプロになった暁には、月刊でも週刊でも、そのニーズに対応できるスピードを、その時になってから身につければいい。
本当にそうなのかなぁぁぁ???

もちろん、そういう覚悟ができていて、
その覚悟と自分の予定と目標どおり、やれる人はいると思います。
そうやって現在プロで、おもしろいマンガをプレゼンされてる方もいらっしゃることでしょう。
でも・・・ね。
やっぱり意識として欠けてる人もいらっしゃると思うのが、
「漫画家って、そのほとんどが、採用=即戦力として考えられてるのではないでしょうか!?」
ということなのです。

一部の大手の雑誌で、二軍を抱えられる許容量のあるところはさておいて、
即戦力でない作家(の卵かな?)をどうこうしてくれるほど、余裕のある商業誌なんて、
ほとんど無いんじゃないのかなぁ?
採用=即掲載(=代用原稿を含む)以外には、
「うん・・・今回のはイマイチだねぇ」
「これじゃ悪いけど、載せらんないなぁ」
「じゃぁ・・・また描いてきて」
が、オチではないでしょうか?

そういう場合、一作一作に手間暇かけて時間をたぁ〜っぷりかけて・・・なんて、
言ってられなくなるんじゃないかな?って思うのです。

漫画家志望の時点で、
実はもう既に、「掲載枠争い」の一員であり、
他の漫画家志望者との争い、
既存の漫画家(=特に私のような冷や飯食い・打ち切りヒヤヒヤ漫画家)などにとって、
飯の種を争う相手になってると思うのです。

漫画家志望の時点で、何処に目標をおいてるのか・何を基準に考えているか知りませんが、
私はやっぱり「その雑誌の読者を楽しませる」ことではないか?と思うのです。

たま〜に載っているだけのマンガでは、
(もしそれがワリと気に入ったマンガだとしても)読者は覚えてくれません。
覚えてくれなけりゃ、待っててもくれないでしょう。

だいいち、読み切りを年に数本描いただけで、
その収入で暮らしていけるわけもないでしょうし。
(漫画家の原稿料なんて、たかがしれていますもん/苦笑)

「デビュー」を何かのハードル・・・喩えるならば入学試験や入社試験・資格試験のように考えてはいませんか?
これが出来たなら、漫画家になれる。
残念ながら、そんなものではありません。
私のように、なんとなくデビューしちゃうことだってありますし。
代原がデビューなんてことも多いでしょうし、
大々的なお披露目で「期待の大型新人デビュー!」なんて飾られても、次の作品が
日の目を見れないことだってあります。

(私がプロ野球好きなので、何かにつけプロ野球に喩える癖がついてるのですが)
プロ野球の二軍選手もしくはプロ選手予備軍で、
一軍スタメンの選手よりも、バットを振る回数が少なく、
(ピッチャーの場合は投球練習の数・・・ね)
「一軍にあがったら、スタメンになったら、いっぱいバットを振ってヒットを打ってやる」
みたいな考えの人は、まずいないでしょう。
実際一軍の選手は、お客の前で何千何万とバットスイングを繰り返し、
ヒットも打てば、三振もしてるわけで、
そういう奴を蹴落として、自分が桧舞台に登るためには、
理想と、(あえて)空論と、若さと、好きという情熱だけでは、太刀打ちできないんじゃ
ないでしょうか?
奴らはお客の前で千回バットを振る。
ならば(お客のいない)俺は百万回振って、追い抜いてやる。
とかいうのが、妥当に思えるんですけど。

で・・・もちろん理想としては、既存のプロの数倍もの量をこなす、
というのが良いんだろうけど。
そうもいかないから、せめてプロと同じだけ、物量でもこなさないと、
なかなか「(プロになるための)上達」というものは、効果を見られないんじゃないかなぁ?
とか、思ったりするんです。

「描くのに慣れれば、早くなるよ」
とか言う人は、
なぜそれが今の漫画家志望者である時期に、「描き慣れ」できないのでしょうか?

いっぱい描ける作業スピードのクォリティというのもあります。
いっぱい描くからこそ、次に思いつけるモノというのもあります。
いっぱい描くからこそ、描ける細かい描写というのもあります。
いっぱい描くからこそ、描ける壮大な物語というのもあります。

そしてそれらは全部、漫画家になるためには必要なものだと思います。
「得ていて武器になることはあれ、邪魔にはならない」ものであると思います。

もちろん私もまだまだ修行中の身です。
もっと早く、もっとたくさん描かなくてはならないと思っています。

「ああ・・・俺もいっぱい描かなくちゃ」
とか思った方、
もし貴方の持ち込み・投稿先が月刊誌なら、毎月持ち込みしてみてはいかが?
少なくとも編集は、そんな志望者には一目おいてくれます。
そして私はもとより、既存のプロの漫画家連中と競争・勝負しましょう。
私も負けないよう、そして先輩漫画家達にも負けないよう、がんばります。

「俺は別にいっぱい描けなくてもいいや」
とか思った方、
別にプロになる必要は無いのではないですか?
アマチュアとして、趣味として、マンガを描き読む楽しみも、それはそれで素晴らしいことだと思います。

なんだか、ハッパをかけようとして、
自分に一番「グサリ!」と来るような文章になっちゃったなぁ。
ま・・・いいや(笑)

毎度のことながら、異論も反論も大歓迎です。

(2000/1/3)